悲しい生活(ロッキング・オン)/松村雄策

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1994年7月20日 初版発行。


松村雄策は、1951年4月12日生まれ、2022年3月12日に逝去した、東京都出身の、ロック・ミュージシャン、音楽評論家、文筆家です。
今作は、著者にとって5作目の単行本で、前作『リザード・キングの墓』から5年ぶりの作品となります。
前作同様、各種雑誌等に掲載された短編エッセイをまとめたもので、テーマもロックやプロレスなど愛着のあるものになっていますが、前作と決定的に異なるのは、青春期の多感な時期に影響を受けたものの瑞々しさを宝物のように大切に扱うだけでなく、著者が初めての小説『苺畑の午前五時』の創作を経た経験を通して、自分の感覚や主観を自由に移動させて、自分の目の前にある対象を扱う、表現者としての成熟も感じさせます。
例えば、ジョン・レノンのドキュメンタリー映画『イマジン/ジョン・レノン』について書かれた章は、次のようになっています。


 とりたてて、新しい発見があるわけではない。今迄にも何十回何百回と観た聞いた読んだ、ジョンの一生のストーリーである。
 ところが、その慣れ親しんでいるはずの物語を観て、僕は一時間四十五分の間に三回も涙を浮かべてしまったのだ。映画が終わると、席から立てなくなってしまったのだ。
 この映画がこれだけ素晴らしい作品になったのは、ジョンを正しく等身大でとらえているからだろう。ヨーコも資料はすべて提供したけれど、一切価値は出さなかったそうだ。
 この映画の中に、撮影のためにジョンとヨーコがベッド・シーンを行なう場面がある。そのときのヨーコが、とても綺麗に見えた。
 正直にいってしまうと、ヨーコが綺麗に見えたのなんて、僕は初めてのことである。ジョンについては、いうまでもないだろう。
(『八年目の十二月八日に』より)


ここには、ビートルズの登場とともに人生を決められた人間の宿命を受け入れる覚悟とともに、オノ・ヨーコに対する考察や映画自体に対する批評を同列に違和感無く並べる、書き手としての成熟さが感じられます。
他のテーマに関するエッセイも、洒脱さのある愛情ともいうべき、軽妙さと熱さが感じられる筆致に、ロックやプロレスに興味のない読者も読者の楽しみを満喫できる内容に変貌を遂げています。


経年による破れと汚れと変色があります(写真参照)。
それ以外は美品です。

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